大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京家庭裁判所 昭和40年(家イ)4497号 審判 1966年4月26日

申立人 森山文男(仮名)

相手方 森山昭子(仮名)

主文

申立人と相手方とを離婚する。

当事者間の長女悟子および長男則男の親権者をいずれも申立人と定め、同人において監護養育する。

申立人は相手方に対し離婚にともなう財産分与として金三五万円を左の方法により相手方住所に送金して支払え。

本審判確定と同時に金五万円、昭和四一年六月以降昭和四三年一月まで毎月末日限り一箇月金一万五千円宛。

理由

一  本件記録添付の戸籍謄本、家庭裁判所調査官宇田川弘助の調査報告書および本件調停の経過によると、次の事実が認められる。

(一)  申立人は、昭和二二年一月一九日相手方と結婚式を挙げて東京都内で同棲し、同年三月五日正式に相手方との婚姻届出を了し、相手方との間に昭和二六年一一月二四日長女悟子を、昭和二八年七月六日長男則男をそれぞれ儲け、婚姻後、十数年間は相手方との間に円満な夫婦生活を営んで来たのであるが、昭和三四年夏以来の次に掲げるような相手方の度重なる非違行為により、申立人と相手方との仲は、現在破綻状態となつていること、

(二)  相手方は、昭和三四年夏頃その友人のすすめで○○生命保険相互会社の外務員として勤務することになつたが、その勤務成績を挙げるために、実際には新規保険加入者がないのにこれがあつたように架空人名義で保険契約証書を作成し、申立人から月々受領する給料を操作して、右保険料の会社への支払に充てることをしたため、勤務後約一年半で右勤務先に対し約八万円の保険料の未払金を生じたので申立人はこの未払金を弁償し、相手方は昭和三五年右勤務先を退職したこと、

(三)  相手方は右会社に勤務中、同僚の外務員にさそわれて昭和三五年頃から競馬に耽溺するようになり、以来昭和四〇年四月頃までの間競馬に毎月一万円ないし二万円を費消していたこと、

(四)  相手方は、昭和三七年頃から、申立人に無断で、申立人から受領する給料で不必要な衣類、時計、貴金属類を月賦販売会社から購入し、その月賦代金の支払が終わらないうちに、これらの物品を入質して現金を借用し、その現金を浪費するようになり、申立人にこれを発見されると、相手方は相手方両親立会のもとに申立人に対して再びかかる浪費をしないと誓約したので、申立人もこれを宥恕し、それまでの月賦未払代金は月々の給料の中から支払つていくこととしたのであるが、その後も相手方はなお同様の浪費を重ね、昭和三九年一一月初めで、月賦販売会社に対する未払代金が約二七万円に達したこと(その後現在まで申立人はその支払に努め、約一〇万円となつている)、

(五)  相手方は昭和三八年初め再び○○生命相互会社の外務員として勤務することになつたが、再び前回と同様の非違行為を繰り返し、右勤務先に対し、約一三万円の保険料未払金を生じたので、申立人は同年一〇月八日相手方両親立会のもとに、相手方に再び保険外務員として勤務しないことを誓約のうえ、右勤務先を退職させ、申立人において右未払金を弁償したのであるが、その後も相手方は申立人に無断で、△△生命相互保険会社や×××生命保険相互会社の外務員として勤務し、いずれにおいても申立人に無断で、申立人を身元保証人としていることが判明したこと、

(六)  申立人が昭和三九年三月に、長女悟子の中学入学に要する費用金一三万円を相手方に手交したところ、相手方はこの金員を他の使途に費消してしまい、また、相手方は昭和四〇年四月一日に申立人に無断で自宅の電話加入権を担保に金三万円を借受けたこと(申立人が利子ともに四万六千円を支払つて担保を解除した。)、

(七)  申立人は昭和四〇年八月に試みに金一五万円を生活費として相手方に手交したところ、約金一〇万円余の使途が不明であつたので、その後は、申立人は相手方に家計を担当させないことにしたこと、

(八)  このような度重なる相手方の浪費等の非違行為により、申立人は借金の返済に追われ、申立人一家は生活難となつており、申立人は現在勤務先の会社に対し約金二一万円、その会社社長個人に対し金七万円、友人に対し約金一八万円、合計約金四六万円の債務を負担していること、

(九)  申立人は、度重なる相手方の浪費等の非違行為とこれに伴う借財の整理と生活難から相手方との将来の生活に希望をもてなくなり、相手方との離婚を決意し、昭和四〇年九月一五日当裁判所に相手方との離婚の調停の申立をしたこと、

(一〇)  当裁判所調停委員会の調停において、相手方は、従来の浪費等の非違行為は認めながらも、申立人に対しても子供に対しても申訳ない、再びかかる非違行為をしないように生活態度を改めて、必ず立直るから申立人は離婚を思い止まつてほしい、夫婦円満に生活できるように調停を通じて申立人と話し合いたいと主張したのであるが、相手方は昭和四〇年一二月二二日から、昭和四一年四月二六日まで前後七回に亘つて開かれた調停期日に二回しか出席せず、真に生活程度を改めていくよう努力する気配は窺われないのみならず、昭和四一年二月には、申立人から生活費を支給されておりながら、自宅の冷蔵庫やステレオを入質する有様であり、結局調停は成立する見込がなくなつたこと。

二  当裁判所は、調停委員西方潔、同田村満喜枝の意見を聴き、前記認定の事実その他一切の事情を観て、当事者双方のため衡平に考慮した結果、本件相手方の浪費等の度重なる非違行為は婚姻を継続し難い重大な事由に該当するものと認められるから、本件については、家事審判法第二四条の調停に代わる審判によつて、申立人と相手方とを離婚させ、かつ、当事者間の長女悟子および長男則男の親権者をいずれも申立人と定め、また申立人の相手方に対する財産分与を離婚後約二年間の扶養を保障するものとして金三五万円と定めることが相当であると認め、主文のとおり審判する次第である。

(家事審判官 沼辺愛一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例